初恋のはなし
とはいえ、初恋は男子が対象だった。
「初恋の人は?」と聞かれると、今でもどちらが先かな?と一瞬迷うのだが、その迷うのも含めて自分らしいと思っている。
どちら、の片方は幼稚園で同い年だったTくん。もう片方はムーミンのスナフキン。
スナフキンは、これはもう、ピーターパンと並んで、世の女子が一度は通る道でしょう。
ムーミンの良き話し相手、孤独と自由を愛する旅人…わたしが幼い頃のスナフキンはギターを抱えていて、だから、わたしは叔父の愛用のギターを勝手に持ち出しては耳コピで「おさびし山の歌」の出だしを弾きつつ、友だちと盛り上がっていたものだった。
ムーミンが怪我をした時に、自分のスカーフを口に咥えて割いて、包帯にしたあの仕草のカッコいいこと!
それと印象的なのは、ムーミンたちが冬眠する時期、スナフキンが村から去る時の一言。スナフキンは妖精だけど冬眠しないので、ムーミン谷が冬になると、放浪の旅に出る。村の入り口で振り返って、寝ているであろうムーミンたちに「春までおやすみ〜!」と挨拶して去っていくその姿。
優しくて、自由で、イケメン…憧れで胸をときめかせた幼いわたし。
それが長じて10代の頃にはスナフキンの顔入りの(これが結構劇画タッチ)Tシャツを着たり、母にフェルトでスナフキン帽を作ってもらってコスプレしたりと…もう、隠しきれないスナフキン愛まみれ。
振り返って思うのは、初恋の人のイメージというのは、その後の好きになるタイプを決定づけるものなのだな、ということ。
対してTくん。
こちらはあまり思い出が無い。実は、よく遊んだとか、そういう間柄でもなく、わたしが一方的に気に入ってたというだけの話しなのである。しかも、好き、というのを素直に言えない性分だもので、いつも追いかけていじめていた記憶が…Tくん、ごめんね。
気に入っていたポイントはどこだろう。多分、わたしより小柄で細くて、可愛かったところ。子どもの頃から、マッチョで「男らしい」人が好きではなかったのだな、と思う。
この初恋の2人?をしみじみと思い出したりはしない。
男性は過去の思い出を冷凍保存しておいて、たまに取り出し、ためすつがめつ眺めるという。女性は上書き保存、と言われるけれど。
(ヘテロではない自分が、世の中の基準でどこまで「女性」なのかはまたいつか考察する)
そういうのが関係するのかどうなのかわからないが、過去の思い出に浸ってうっとりしたりはしない。
ただ、初恋の2人?から考察できることは興味深い。
マッチョで男臭くて、でしゃばる人が、自分は昔から苦手だったのだと。あまりに幼い頃の話なので、その好みは形成されたものでなく、おそらく生まれ持ったものだろう。
その好みの元はどこから持って生まれてきたのだろう、と思うにつけ、人間とは面白い生き物だな、と思う。
初恋の人とは別の話で、親しくしていた造り酒屋の姉弟がいた。もともとお姉ちゃんの方と仲が良かったので、弟とも親しくなり、クラスメートでもあった。そういえばこの子も、赤毛の小柄で、色白でまつ毛が長く、頼りなげで、気の優しい泣き虫な子だったな。
当時のわたしはボーッとしていて、忘れ物も多い「わけわからんちん」で、親は頭を抱えていたが、その弟くんもわたしに負けず劣らず、へんてこなボーッとした子だったので、もしかしてあのままあの町にいたら、親同士が「破れ鍋に綴じ蓋」ということで縁組をしていたかもしれない。
そうしたら今頃わたしは造り酒屋のおかみさんだったのだろうと想像したりする。
封建的な、小さな閉鎖的な町で、子育てしつつ、夫の手伝いをし、義両親に仕える…その生活を自分が幸せと思えただろうか。
パラレルワールドを覗いてみたい気がする。
#初恋#スナフキン